智の木協会活動報告

智の木協会の活動報告ブログです

智の木協会 第9回シンポジウム レポート

 平成28年10月31日(月) 17時30分〜18時30分

 於:大阪富国生命ビル4階 「一社」テラプロジェクト Aゾーン



司会:智の木協会 主幹 加藤 久明 氏
開会のご挨拶:智の木協会 特別顧問 平井 堅治 氏


 お集まりの皆様にご参加のお礼を述べられました。そして、講師の大澤先生について「日本を代表する食品科学の研究者であられ、2006年ゴマに含まれる成分、抗酸化作用を持つセサミノールに大腸ガンや動脈硬化を抑制する効果があることを発見されました。また、ココアの機能性成分カカオポリフェノールの抗酸化機能に関する研究について発表しておられます」と紹介されました。

 智の木協会は「植」と「食」の二つを大きな柱として掲げており、これまでは主として「植」について取り上げてきましたが、本日、初めて「食」について講演いただきます。「医食同源という言葉がありますが、生涯10万回位食を摂すると言われています。食と健康との関連ということで、貴重なお話をお聞きできますこと、楽しみにしています」と期待感を示されました。

 智の木協会は平成20年5月4日に創立され、ワークショップやシンポジウムを開催し、本日は9回目になりましたが、「智の木協会から発信する提言や理念が大阪のみならず広く社会に浸透し、持続可能なよりよい社会に貢献していくことを願っています」と結ばれました。





智の木協会1年間の報告とご案内:智の木協会 代表幹事 小林 昭雄 氏

 智の木協会平成28年度活動記録に基づき、1年間(平成27年10月〜平成28年9月)の活動を説明されました。


 ・創立:2008年5月4日。
 ・第8回シンポジウム:
  平成27年12月4日(金)京都大学名誉教授 西田 律夫 氏
  「実のなる木を害虫から守る〜昆虫誘引物質の探索」
 ・第10回ワークショップ:
  平成28年5月31日(火)小川流煎茶 家元嗣 小川 可楽 氏
  「煎茶への誘い―文人と喫茶」
 ・創立記念(8周年)講演会:
  平成28年5月7日(土)日本一明るい経済新聞 編集長 竹原 信夫 氏
  「元気な企業の舞台裏」
 ・新年交流会:
  平成28年1月23日(土)
  大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 
  准教授 岡澤 敦司 氏
  「ノーベル平和賞級?猛威をふるう寄生植物による被害の克服を目指して」
 ・第17回イーヴニングトーク
  平成27年10月20日(火) 信州大学名誉教授 廣田 満 氏
  「信州―きのこの森を語る」
 ・女性専科 第1回「毎日を明るく前向きに生きるための」講習会:
  メイクレッスン
  平成28年8月23日(火)大阪大学 渉外本部 未来基金担当
  特任専門職員 吉田 富士江 氏
  参加費を未来基金に寄付
 ・第10回 グリーンツーリズム 大阪サイエンスクラブと共催:
  平成27年12月8日(火)「竹中大工道具館見学会」
 ・第11回 グリーンツーリズム
  平成28年9月17日(土) 「京都 小川流 煎茶に親しむ一日」
 ・支援関連:
  平成27年11月20日〜12月25日
  「社団」テラプロジェクト主催 クリスマスツリー市民選手権参加
  平成27年11月29日(日)「大阪みどりのサンタ・ラン」参加
 ・新規事業「この木ちの木」(第一世代)
  平成28年7月25日(月)〜29日(金)
  ひばりヶ丘こどもアカデミー代表 辻本 あかね 氏他
  「まちラボ 夏の学校」
 「この木ちの木」について代表幹事は次のように説明されました。「智の木協会にぜひ子ども達の参加をということで、近藤理事を中心に進めています。結果、子ども達も大変喜んでいましたし、子ども達が持つ可能性を強く感じましたので、今後色んな事業を進めたいと思っています。」
 そして、今年度の2つの大きなみどりのサンタイベント「11月27日、大阪城公園でのみどりのサンタ・ラン」「12月4日、うめきたガーデンでクリスマスツリーつくり」を智の木協会の後援を得て参加実施する旨の話がありました。特に、「うめきたガーデンでは、1000人集まって人文字を作り、それをドローンで空撮し、クリスマスライブ、インターネット放送等々インスタグラムに掲載して広めようという催しですので、智の木協会の方々は阪急電車、観覧車に乗るコースで、多くの方々にご参加いただきたい」とお願いされました。また、「智の木協会のコンセプトがようやくまちに動き出したということになると思いますので、来年に向けて智の木協会の力を示していきたい」と抱負を述べられました。




講演:大澤 俊彦 氏 愛知学院大学 心身科学部 健康栄養学科 教授
          名古屋大学名誉教授
座長:智の木協会 代表幹事 小林 昭雄 氏





講演
 東京大学農学部農芸化学科で学ばれた大澤氏は、小林代表幹事や小菅事務局長とは同世代・同分野でお互いに若い頃から知己の中だったようです。東大ではキクの根を出すホルモンの研究を、オーストラリアではユーカリのホルモンについての研究を3年間されました。
 その後、酸化が老化に関係しているのではないかということから、抗酸化食品について研究を始められ、名古屋大学で30年以上、愛知学院大学で8年続けておられます。愛知学院大学曹洞宗の大学で、今年創立140周年を迎え、心身科学部とは、「心と身体を科学する」唯一愛知学院大学にのみ存在する学部だそうです。大澤氏は、8年前に(株)ヘルスケアシステムズを立ち上げられ、現在、愛知学院大学名古屋大学生命農学研究科、(株)ヘルスケアシステムズの3機関に所属して「食の機能性」について研究されています。
 健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)について説明されました。肥満者の割合は全国で約3割。しかし、今の若い女性たちは逆に痩せている人が多く、これは次に生まれてくる子どもたちに問題が起こりやすい、と第2次世界大戦時の例を挙げて警告されました。戦時中、ドイツ・ポーランドでは飢餓状態でたんぱく質不足で生まれた子どもは、現在、生活習慣病の巣になっているとのことでした。その他、野菜の摂取量について、食塩の摂り過ぎは禁物、運動をしましょう、たばこ・酒はほどほどに等々書いてあるそうです。
 次に曹洞宗と精進料理についてお話いただきました。本山は永平寺、東京は鶴見の総持寺道元禅師によって開かれた曹洞宗、寺で僧侶たちは無駄のない食事、精進料理を食していますが、道元による「典座教訓(てんぞきょうくん)」といういわば料理の仕方、作法を説いた書がありそれに法って料理されているそうです。
 しかし大澤氏は「精進料理はやはり塩分が多い、意外とカロリーも高い。必ずしも良いとは言えません。昔の伝統だけにとらわれず、新しい科学でやりましょう」とおっしゃっています。
 これまでは、糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルを五大栄養素として「守りの栄養学」と位置づけ、糖質・脂質の摂り過ぎに気を付けようと発信してきましたが、それ以外に、第六の栄養素として食物繊維、第七の栄養素(非栄養素)として、ポリフェノールクロロフィル、イオウ化合物、イソチオシアナート(辛味成分)が挙げられ、大澤氏はこれを「攻めの栄養学」と位置付けておられます。
 ポリフェノールの言葉自体あまり一般的ではなかった時代から大澤氏は、ゴマのポリフェノール、カカオポリフェノールの研究をずっと続けてこられ、カカオポリフェノールの方は、今年21回目の国際シンポジウムを開かれました。
 イソチオシアナートはワサビの辛味で、アメリカではブロッコリースプラウトがガン予防になるということで売られているとか。摂り過ぎは甲状腺肥大の原因になると言われていますが、適切に摂ることにより解毒力を高める効果があり、日本人はワサビを5g程度、ゴマでも5〜10g、よくすって食するとよいそうです。サプリメントと比較して色んな成分が含まれていることがその理由です。
 これまで身体にあまり良いと思われていなかった非栄養素を、第七栄養素と称してバランスよく摂り過ぎないように摂取していくことが、長寿の一番大事なポイントであると大澤氏は述べられました。
 食物、栄養素摂取量とリスクとの関係について、どんな栄養素でも摂取を続けていけば病気のリスクが下がっていくというような物は世の中に無く、最初は効果があり途中で効かなくなる、また、大量に摂取すれば効くようになることはあまり考えられない、最初は効果があるが途中から病気になるケースが多く、摂り過ぎを抑え種類にも気を付けることが大事ですと説明されました。
 日経が“日本の未来を切り拓く”と題して4人の専門家について特集を掲載した中に、大澤氏がその1人として選ばれました。理由は、抗酸化食品について20年にわたってチョコレートココアの研究をされ、人の臨床研究で非常に良い結果が出たことによります。

 サプリメントについては、「体調、考え方、趣味ととらえ、機能まで考えて摂っていただきたい。あくまでもバランスのとれた食生活が大事です」とご自身の研究成果を元に説明されました。タマネギ、ブロッコリー、大豆、ゴマ等が重要な食品であることを述べられ、最近ではチョコレートに特に注目しておられる他、赤ワイン、アントシアニンを多く含んだベリー類も研究しておられるそうです。ゴマ学会を30年前に立ち上げられ、大澤氏はセサミノールの名づけ親でもあります。これまで、抗酸化物質について450種以上の物を研究された結果、とにかく組み合わせが重要と述べられました。
 体重当りの酸素消費量と寿命との関係について、酸素消費量の高いネズミなどの小動物は寿命が非常に短く、ゾウやカバの大動物は酸素消費量が低く寿命が長い、人は酸素消費量は低くはありませんが寿命が長い、その理由は血液中の抗酸化成分が多いからだそうです。八木國夫氏は「女性ホルモンに抗酸化性がある」と世界で初めて発表され、よって「女性の方が長生きである」のだそうです。
 「活性酸素は身体の錆を作る」とよく言われますが、活性酸素の「功」について説明してくださいました。抗菌・抗ウイルス作用、呼吸におけるエネルギー源、各種ホルモン類の合成、情報伝達(プロスタグランジン ホルモン)など、逆に活性酸素が無ければ生きていけませんと大澤氏。人間の受精の際にも活性酸素が必要とか。人間にとって必要な物であっても老化し、生活習慣病はほとんど酸化で発症すると言われていますし、抗酸化力は年齢と共に下降するそうです。
 10年前に、アンチ オキシダント ユニット研究会を立ち上げられたことについて説明されました。この研究会の基本的な考え方は、生体内の抗酸化機能維持がいかに重要かということを科学的なバイオマーカーで計測する、血液、尿、唾液などの中にある分子の多少で抗酸化力を科学的な根拠で測定することだそうです。大澤氏が開発された酸化ストレスのバイオマーカーでタンパク質や遺伝子が酸化によって変化することを測ると、酸化状態が分かります。大学発ベンチャー企業で20名以上の社員が、人や動物のバイオ細胞を使った評価システムの開発に取り組み、人の臨床研究をされ、人で効果があった抗酸化食品の開発をされています。

 65歳から認知症の発症率が一気に上がり、特に85歳以上は3〜4人に1人は認知症と言われています。寿命が延びたことにより、認知症の割合が増えたこともありますが、大澤氏は若年性の認知症が問題だと指摘されました。全体の50パーセントがアルツハイマーで、かつて多かった脳血管性認知症が現在は減る傾向にあり、逆にレビー小体型認知症が増えてきているそうです。「日本でも人はいずれかを発症するリスクを持っています。それを如何に先伸ばしできるか、疾病のリスクを如何に下げるかの予防医学だと思います」と大澤氏。
 神経変性疾患では、疾病特異的なタンパク質凝集体が認められます、と説明を続けられました。アルツハイマー患者の脳にあるβ―アミロイド、パーキンソン病のα―シメクレイン、舞踏病、プリオン病、ALS 筋萎縮性側索硬化症、いずれも脳の中にあるタンパク質が凝集していることより発症する、つまりタンパク質の酸化・還元のバランスが崩れて酸化してしまうことが原因とされているそうです。大澤氏はこの考え方を元にDHA(ドコサ ヘキサ エン酸)に着目されました。青い魚に多いDHAですが、脳にも非常に多く27%、目の網膜は60%がDHAとか。アルツハイマーの患者ではDHAが健常人の半分しか無いことにより、DHAが減少することがアルツハイマーの原因であるとする考え方が多かった20年前から、大澤氏は脳の中でもDHAが酸化されるのではないかという考え方を進めてこられました。
 DHAは非常に酸化されやすく、−20℃位でも酸化してしまい、冷凍庫の中で油で揚げた魚が空気に触れると酸化が一気に進むため、気を付けましょうと警告されました。老人ホームでアルツハイマーで亡くなった9人の脳のスライスを見たところ、DHAが酸化している部分とβ―アミロイドを持つ老人班とが完全に一致したとのこと。また、ショウジョウバエやネズミを使って脳の酸化を防ぐ物質を見つける研究を進め、大豆のイソフラボン、ウコン、レモン、ゴマ、チョコレートのポリフェノールアスタキサンチン等を挙げられています。発酵食品にも注目されていて、メリットを以下のようにまとめておられます。
 ・嗜好性の改善(味覚の改善、脱色、etc)
 ・抗酸化性の向上
 ・吸収率の改善、etc
 非栄養素と言われる成分にはえぐみがあり、おいしい成分ではないものも多いため、これを発酵という日本の伝統技術でおいしい食品にかえていけるのではないか、と大澤氏の話は続きます。テンペ(インドネシア発酵食品)、八丁味噌、発酵レモン果皮、発酵大豆イソフラボン、発酵ゴマ脱脂粕、カカオポリフェノール、コプリーノ(南部パラグアイで栽培の新しいキノコ)、テトラヒドロクルクミン、アスタキサンチン等は発酵食品です。これらの機能性を浜松フォトニクスが開発した機器により測定した結果、ポリフェノールの一種には抗酸化・抗炎症の作用があること、母乳に含まれているラクトフェリンは抗酸化性・抗炎症性を高めることが分かり、いずれも自然免疫の賦活作用が認められました。アントシアニンには抗炎症作用が認められ、ビタミンCは抗酸化性は強いけれども、抗炎症性はあまりないことが分かったそうです。
 浜松フォトニクスとヘルスケアシステムズ、愛知学院大学がコラボして、抗酸化物質の摂取前後で血液を調べ、身体の中で十分機能しているかどうかを測定できる機械を開発し、プロトタイプが出来上がりました。
 DHAについて、青みの魚を食べれば食べるほどいいのかどうか?大澤氏と大府の長寿研究所が研究発表されました。実は、青みの魚プラス発酵食品(愛知県の場合、八丁味噌)を多く食している人の方が推定IQが高かった、つまり、大豆がDHAの酸化を防ぐ抗酸化剤として働くことが分かったそうです。DHAのサプリメントの摂り方が重要と指摘されました。大豆はまた、女性ホルモン活性の力も持っているとのことです。
 大豆は肌にもいいのですが、骨粗鬆症、女性の乳がん、男性の前立腺がんの予防にも大いに関係があるそうで、大澤氏はヘルスケアシステムズと大豆がなぜ良いかを調べるエクオールというエストロゲン(女性ホルモン)活性のマーカーを開発されました。大豆は腸内細菌の働きでエクオールという物質にかわる、このことが大事で、エクオールに変えることができない人も多いとか。かつて日本人の50〜60%の人はエクオールを作ることができましたが、最近の女性は20〜30%しか作れないそうです。これまで、大豆をたくさん食べる日本人はエクオールを作る腸内細菌を持っているから大豆の効果大と言われて来ましたが、データが少なく大澤氏は自宅でエクオールを測ることができる「ソイチェック」という方法を開発されました。サプリメント大塚製薬から昨年発売されています。大豆を食べてもエクオールを作らない人は、更年期障害が多いそうです。

 大澤氏は3年ほど前からチョコレートの食べ方を調べておられます。スイス・ドイツでは年間12kg食べられているのに対し、日本人は2kg以下とか。カカオポリフェノールの研究では、筋肉、肝臓、肥満を抑える、血管をよくする、心臓、脳にも良い・・・たくさんの論文が出ているそうです。明治製菓と共同でカカオからたくさんの活性成分を分析し構造を決められた大澤氏は、実際に食べて試したいと考えられ、動脈硬化のモデル動物であるアポe欠損マウスで調べられました。結果、16週間で血管は詰まってしまいましたが、これにカカオポリフェノールを与えたところ抑制され、マウスレベルでは動脈硬化の予防になることを突き止められました。やはり、チョコレートはカロリーが高く肥満になるということで、30年前には健康によいという論文はほとんど無かったのですが、その後、大澤氏等が出された論文が引き金となり、アメリカ、ヨーロッパで研究が増えてきました。
 人での研究はパナマ近くの島に住むクナインディアンが都会に憧れてパナマシティに移り住んだところ、ガンを始めとする生活習慣病が急増したそうで、島に住んでいた時はカカオを食していたのに、都市に移り住んだ際には塩分摂取量が減ったにも関わらず血圧が高くなってしまった、その原因を突き止めてみたところ、カカオに関係があることが分かったそうです。チョコレートを食べていれば塩分を摂ってもよいということでは勿論ありません。日本人の場合、緑茶、コーヒー、赤ワインなどと一緒に毎日最低650mgのカカオポリフェノールを摂取することが望ましいという実証研究を立ち上げました、と大澤氏。120歳で亡くなったフランス人は、1週間に900gのチョコレートを、世界第3位の長寿の人の場合も、ほぼ毎日食べていたということから、愛知県蒲郡の市民を対象にチョコレートの人への研究をされました。蒲郡は愛知県で生活習慣病発症率が一番高かったことがその理由です。72%高カカオチョコレートを毎日25g4週間食してもらった結果、以下のことが証明できました。
 1.血圧が下がった
 2.HDLコレステロール値が有意に上昇した
 3.SF-36の精神的スコアで改善がみられた(精神的なストレスが排斥された)。
 4.BDNF(脳神経の栄養源)が有意に上昇した 
 5.摂取の前後で、体重・肥満度(BMI)に全く変化は認められなかった
 チョコレートの生活習慣病に関する実証研究の結果、正常血圧の人にはほとんど影響がなく、高血圧の人の場合は非常に有意に下がりました。140以上が高血圧と言われていますが、ほとんどの人は130以下に下がったそうです。悪玉コレステロールは、4週間では有意さは出ませんでしたが、善玉コレステロールは治験者全員が有意に上昇しました。
 次に、活性酸素による遺伝子の傷つきと炎症の度合いを尿で測る方法を開発されました。炎症が起きると心疾患のリスクが高くなります。炎症と遺伝子の酸化を防げばそのリスクは下がるはずです。「酸化されやすい人、運動のやり過ぎの人、年齢が高い人、睡眠が6時間以下の人など数値が高いのですが、高カカオチョコレートを適度に食することで血圧を下げたり動脈硬化のリスクを下げることができるということが言えます」と大澤氏。チョコレートの摂取を4週間続けますと精神的なストレスが緩和され、BDNF(脳神経の栄養源)が増えることが分かったそうです。BDNFはまた、脳活トレーニングや運動することによっても増えます。これまでBDNFについて報告されていた内容は以下の通りです。
 ・ニューロンの産出を促進させる脳にとって重要な栄養分
 ・海馬に高濃度で存在 
 ・65歳以上の高齢者では、加齢とともに減少
 ・血中に存在し、血液脳関門を通過
 ・うつ病アルツハイマー認知症などの精神疾患で脳内のBDNFが減少
 ・記憶・学習などに認知機能を促進
 ・運動によってBDNFは上昇
 大澤氏は、チョコレートを摂取することによりBDNFが上昇し、認知症予防の可能性がありますと結論を述べられました。
 最後に、ご自身が立ち上げられた(株)ヘルスケアシステムズ社について説明がありました。

 


閉会のご挨拶:豊田桃介氏 智の木協会 専門委員

 老化、認知症予防などアカデミックな内容を分かり易くお話いただいたことへの感謝を述べられました。一番の関心事は、その年齢でお元気で活動されておられる先生の普段の食事ですと述べられ、多くの方々が頷いておられました。
 次に、清水建設(株)が平成22年、大阪富国生命ビル建て替えに携わられたことが智の木協会との接点であり、その経緯を説明されました。以前のビルは地下に飲食店が、屋上にビアホールがあったそうです。その後、阪神淡路大震災があり耐震性の問題で建て替えが決まり、富国生命様はデザインをフランス人建築家のドミニク・ぺロー氏に依頼され、ペロー氏はこのビルを「いのち」とか「成長」という言葉をモチーフにし、森の大樹をイメージしてデザインされたと話されました。そして、曽根崎警察署、阪神百貨店側からビルを見上げていただくと、普通のビルが直方体に建てられているのに対し、裾の部分がスカートにように大樹が根を張るようになっていますし、窓もガタガタしていて下から見上げると反射して大樹の洞のように見え、まるで智の木協会の活動を象徴するようなビルになっていますと説明されました。
 最後に、平成20年に活動を始めた智の木協会の活動に対するご支援にお礼を述べられ、今後もお力添えをいただきたいとお願いされました。




交流会








2017-3-22 第19回イーヴニングトークのご報告



 大塚化学関連会社 農業生産法人 吉野農園 代表取締役社長 平木雅弘氏に、「フルーツトマトの秘密」―日本一おいしいトマトを目指して―と題してお話いただきました。










 フルーツトマトという品種があるわけではなく、糖度の高いトマト、高糖度トマトのことを指します。吉野農園様からこの日届いたフルーツトマトの糖度は8.5でした。

 水分圧力によるストレスを与えることにより糖度が増すということで、小玉ですが凝縮されていて栄養的には優れているというお話でした。














 その他、甘〜いトマトの見分け方も教えていただきました。

2017-2-21 「毎日を明るく前向きに生きる」ための講習会 レポート

講習会 〜メイクレッスン 冬バージョン〜のご報告

  • 日時:平成29年2月21日(火) 午後4時30分〜7時
  • 会場:富国生命ビル4階 智の木協会ラウンジ



 平成28年8月に〜メイクレッスン 夏バージョン〜を開催し、大変好評でした。
 今回は、お肌を暖房などの乾燥から守るテクニックについて、講師に智の木協会会員の吉田富士江さんをお招きしてご指導いただきました。



≪ポイント≫

  • メイク落としシートでメイクを落とした後、洗顔料を使わず、水を含ませたコットンで顔全体を拭く。
  • ティッシュで水分を素早く拭きとる(ゴシゴシ擦らない)。
  • 化粧水を手またはコットンにとり、顔になじませる。
  • 乳液を手に取り、肌になじませる。
  • クリームを使う。量は多めに。顔全体にマッサージするようになじませる。
  • (マッサージクリームでなくても、朝夜行うことにより効果が認められる)。













2017-1-17 新年講演会・交流会のご報告





 2017年、新年講演会・交流会、富国生命保険相互会社 阿部菜穂子様からご挨拶をいただきました。


















 2017年、最初の集まりにつき、乾杯で新年を祝いました。乾杯の発声は、智の木協会アカデミア会員 宮本欽生様にお願いし、乾杯酒 月桂冠 スパークリングを美味しくいただきました。





































 小林昭雄代表幹事より、2016年11月27日(日)開催の「大阪グレートサンタランin 大阪城公園」参加について、また、ハンガリーの名陶ヘレンド社訪問と今後の協働事業展開について報告がありました。















 この度の年頭講演会の講師として、月桂冠(株)常務取締役 秦 洋二 氏をお招きし、『日本酒つくりの「これまで」と「これから」』と題してご講演いただきました。

















 月桂冠(株)は、京都市伏見区に本社、工場を有する創業1637年の日本酒メーカーの老舗です。秦氏から、酒造りの歴史と最新の海外展開まで分かり易く日本酒についてお教えいただきました。

 特に、お酒の味は水によって変わり、伏見の水は中硬水であるため、酸が少なくきめ細かい淡麗な風味のお酒ができ「女酒」と言われ、灘のお酒は「男酒」と言われるとのお話もありました。







 月桂冠様は、また、日本酒をカリフォルニア州でも生産しておられ、販売数量も順調に増加し、国際的な銘柄となっているとのことでした。



 酒つくりの「これから」として、麹が黒くなった「褐変麹」をヘアカラーとして利用することに成功された事例を説明されました。特に、褐変麹利用のヘアカラーは、徐々に染まるため、男性達の間で人気が出ているそうです。







 本日の新年交流会のお酒は「月桂冠(株)山田錦 特別純米にごり酒、きれい梅酒、純米大吟醸」でした。種類を揃えるにあたり、近畿営業部 近畿流通支店の皆様に大変お世話になりました。ありがとうございました。









 本日はお土産付といたしました。智の木協会企業賛助会員である(株)いせや農場様のいちご「さちのか」を、1パックずつお持ち帰りいただきました。「大変新鮮でおいしかった!」と好評で、事務局として初の試みを評価いただき幸いでした。





2016-12-9 第18回 智の木イーヴニングトークのご報告





 冒頭、智の木協会代表幹事 小林昭雄氏より協働事業としてのイベント「みどりのサンタとクリスマスツリー作り」について報告がありました。














 「みどりのサンタイベント」は、「大阪をみどり溢れる都市に」をコンセプトに実施され、智の木協会は後援団体として本イベントに賛同しました。当日は、智の木協会会員の方々も多数参加くださいました。













 イーヴニングトークには、(株)竹中庭園緑化 プランニング・ユニット室長 松井正樹氏を講師としてお招きし、「植物の創造的利用」と題してお話いただきました。














 植物は屋外で花壇や庭作りに欠かせないものですが、松井氏からは屋内のいろいろな空間に植物を創造的に配置しておられるお話がありました。植物には自ずと人の心を癒す力がありますが、植物の種類、色彩、高低などなど、各種組み合わせによりその場所の雰囲気を和やかに、優雅に演出できることを提唱しておられます。











 大阪富国生命ビル4階(「社団」テラプロジェクトが運営)まちラボ内に、「アーバングリーンラボ」として入店、室内緑化、壁面緑化を施工実践しておられます。ぜひご覧ください。






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株式会社 竹中庭園緑化 アーバングリーンラボ Webサイト

第11回グリーンツーリズム 「京都 小川流煎茶に親しむ一日」レポート

 智の木協会では、平成28年5月31日(火)、第10回ワークショップで小川流煎茶家元嗣 小川可楽氏に「煎茶への誘い―文人と喫茶」のタイトルでご講演いただきました。小川可楽氏のご講演は、その歴史、煎茶の発展、現代社会における意味・意義等について大変分かりやすく親しみの持てる話し方、内容でした。

 智の木協会では、より煎茶道に近づきたい、煎茶の奥深さに浸りたいとの思いから、京都上賀茂に建つ小川後楽堂を訪問させていただきました。玄関から一歩足を踏み入れたその瞬間から非日常の世界です。師範の先生方から丁重なご案内を受け、茶室へと向かいました。窓の外の庭園も、そこが住宅街とはとても想像できない景観を示していました。近衛忠煕(このえ ただひろ)筆 後楽堂扁額が掛けられている茶室で、厳かかつ華やかさが漂うお手前で煎茶を淹れていただきました。無駄の無い流れるような動作に、思わず引き込まれていきました。

























 本日の「香煎」はシュンラン、これもまた、参加者にとっては珍しい体験でした。本席一煎目、初体験の人にとってはあまりにも少ない量です。小川流煎茶は「雀の涙」と言われているのです。しかし、これは病みつきになる味です。二煎目の次にお菓子をいただきます。そして白湯です。白湯も大事な役目をもっているのです。「煎茶道」とは、「目で感じ」「心で学び」「舌で味わう」との印象を強く持ちました。

 膝が悪い人にもやさしい座り方でよいとの配慮から、参加者皆ゆったりと「甘い」本物の煎茶を堪能しました。終始可楽氏に解説していただくという贅沢な会でした。

 昼食は、小川後楽堂様のお世話で、京都「田ごと」のお弁当を新館でいただきました。一日丸ごと日本の伝統・文化に浸りました。

 この二日後の9月19日、小川後楽お家元がご逝去されました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。








第10回 智の木協会ワークショップ レポート

 ・日時:平成28年5月31日(火)
 ・会場:大阪富国生命ビル4階 「社団」テラプロジェクトAゾーン

司会:智の木協会 事務局長 小菅 喜昭 氏

開会のご挨拶:富国生命保険相互会社 不動産部 北林 誠 氏





 富国生命保険相互会社不動産部の北林様からご挨拶をいただきました。富国生命保険相互会社様には、智の木協会設立と同時に企業会員としてご入会いただき、今年で9年目になります。
 先ず、本日ご参集の皆様にご参加のお礼を述べられました。親戚にお茶屋さんがあり、そこでは素人とは異なったお茶の淹れ方で味もおいしいですが、本日はおいしいお茶の淹れ方についても教えていただけるのでは、と期待感を示されました。
 智の木協会の設立趣旨、「植物の持つ多様な機能や植物活用の優位性を認識し、持続可能な美しい環境づくり」「植物や自然の共生を通じた豊かな人格形成の大切さ」等、そこに活動がつながっていくということで、富国生命様として智の木協会の活動を支援しますとあらためて表明してくださいました。
 昨年、智の木協会は「シンボルグリーン東梅田」ということで「フラワーケーキ」の製作に携わるとか、「大阪みどりのサンタ・ラン」で活動を具体化していることを説明されました。「それは会員の皆様の強い絆があってこそ」と話され、智の木協会の理念や提言が広く社会に浸透することを願い、持続可能なよりよい社会づくりに貢献していただきたい、と結ばれました。




智の木協会の説明と座長:智の木協会 代表幹事 小林 昭雄 氏





 本日、小川可楽先生を講師としてお迎えできたことの喜びを率直に語られました。本日のタイトルは「煎茶への誘い―〜〜」さそいではなく、いざないと読む、また、茶房はちゃぼうではなくさぼうと読む、この道は非常に深く、日本人の心ではないかと話されました。そして、我々の心や感性を養ってきたのは、みどり豊かで四季がはっきりしている日本のこの自然ではないかと続けられました。
 代表幹事は学生時代、京都の大学で農産製造学を学ばれました。自然、色、花、匂い、味などの成分を徹底して科学する伝統を継ぐ研究室に属しました。もちろん、お茶の分析もお手のもの。大学で粋な先生の指導を受け、色んなことを学んだその流れの中で智の木協会を設立し、その流れに賛同してくださったのが、可楽先生と家元の後楽先生でしたと話されました。後楽先生には第2回シンポジウムで講演していただいております。
 智の木協会は「智を持った人たちの集まり」であり、智の木の木について次のように説明されました。「木には人が2つ隠されていて、十も人であり、それを支えるのも人ということで、智の木協会設立時に樹も考えましたが、人間は支えあって生きているということが重要なので木にしました。」
 事務局から、今回、可楽先生とお話しさせていただく中で、9月頃小川後楽堂を訪ねさせていただくツアーの計画が出されたことを告げられ、可楽先生にバトンを渡されました。




講演 小川流煎茶家元嗣 小川 可楽 氏
タイトル:「煎茶への誘い―文人と喫茶」 





 「家元の跡継ぎという肩書を持っていますが、緑豊かな北山の麓でお茶の修行を未だしている身分です」「本日は、煎茶の魅力を少しでも分かっていただけたら」と謙虚な口調で講演を始められました。
 「煎茶は、Green Tea で茶葉にお湯を注いでそこから茶液を取り出すものです」と説明されました。一般的に急須や急須に代わる入れ物に結構な量の茶葉を入れ、時間的なゆとりがないためか、現代人は忙しすぎるのか、沸かしたてのお湯を注いでお茶を出し、飲むことが行われていると思います。こんな身近な煎茶ですが、極意を知らずおいしいお茶をいれることができないのが現状です。可楽氏が「この世界を知らない人が多いと思います」と話されるように、知らない人も多いですし知る機会が身近にないとも思います。この度、家庭でもおいしい煎茶を味わうことができるように、人と交流しながら、あるいは交流のツールとして煎茶を用いることができるようになることを願って可楽氏に講演をお願いしました。「煎茶は茶の湯と比較して、昔から戸外でお茶会をしたり喫茶を楽しむ傾向がありました」と述べられましたが、それについては意外と知らない人が多く、知らないことが「敷居が高い」と感じる要因になっているような気がします。
 お茶会が開かれる機会について説明していただきました。京都では三大祭、葵祭祇園祭時代祭がありますが、「葵祭について言えば下鴨神社では祭が1か月間行われ、その後、神様に対してお茶を捧げる献茶という儀式を行います。このような儀式は、近江神宮春日大社などいろいろな神様に対して行います」と可楽氏。これらの後に神様に捧げたお茶を私たちも共に楽しませていただこうということでお茶席を設けることがあり、主催者側は着物を着て作法に法ってその流派のお茶を淹れ、お客様は現在では洋装や立礼(りゅうれい=机と椅子を用いる)といったスタイルでお茶を楽しんでいただくこともあります、と具体的に話していただきました。「お祭りの後に大寄せのお茶会を定期的にやっていますので、ぜひ足を運んでいただきたい」と申されました。
 小川流では普段のお稽古の中で、全国のいろいろな銘茶を集めてお茶の利き茶のようなお茶の産地を当てっこするゲーム、競茶も行い賞味力を挙げていく風雅なあそびがあることを教えてくださいました。小林代表幹事の学生時代の研究室で伝統的に行われている同様の遊びに「茶香服・茶歌舞伎」があります。茶の湯にはない楽しい遊びではないでしょうか。
 小川流ではまた、上等品のお茶を客に差し上げる前に、焙じ器を使って葉を炙り、番茶手前もされています。この番茶とは、私たちが一般的に想像する琥珀色の番茶ではなく、緑茶とほうじ茶の中間くらい、独特な淹れ方をなさっているそうです。番茶は夏は喉の渇きを癒し、冬にも香りと共に楽しむことができます。ほうじ器の下には和紙が張ってあり、焦がさないように少し火をいれるととてもよい香りがたつのだそうです。





 煎茶の道具について説明していただきました。涼炉(りょうろ)というお湯を沸かす道具が凛と立ち、その上に湯瓶(ゆへい)が乗っています。涼炉の中には炭が入っていますが、熱さを感じさせません。湯瓶は急須に似た形で、素焼きの湯沸かしのこと、ボーフラとも言うそうです。茶碗は盃くらいの小ぶりのもので、白磁に文字や絵が描いてあり、風流、風雅なものを好んで使うのが煎茶の特徴だそうです。5客準備されていて、茶葉の上から冷ましたお湯を注ぎ、茶碗に急須から注ぎ分けられます。小川流ではこれを「滴々のお茶」と表現されていて、私たちはお茶は「飲むもの」と意識していますが、流祖小川可進は「喫するものなり」という考え方を示しています。また、「お茶をおいしくいれる」ことが大切なのであり、道具は古くても新しくても、輸入品でも日本製でも良い道具を大切に使いなさいとの教えがあるとのこと、合理的です。
 歴史を紐解きますと、田螺山遺跡(でんらさん)で茶の化石が見つかり、六千年前にお茶があったことが分かっています。そして、中国唐の時代から茶として摂取する文化が生まれたとあります。茶の湯武家社会中心に広まったのに対して、煎茶は唐時代のお茶の聖人、蘆仝(ろどう)や陸羽(りくう)によって起こされ、それまでの食べ物的なお茶ではなく、彼らの精神は文人や志士に好まれていったという経緯があり、貴族社会で好まれたとあります。この二人は茶聖で、陸羽は茶の栽培法、茶道具、茶の淹れ方などを研究して「茶経」にまとめ、私たちがイメージする茶の淹れ方が確立されたそうです。蘆仝は詩人でもありますが、貴重な新茶を孟諫からもらった際にお礼の手紙を書いた一節を説明していただきました。
 ・一碗飲むと、喉の渇きを潤し
 ・二碗飲むと、くよくよしていた気持ちも無くなり
 ・三碗飲むと、体の中に五千巻の経典を得たような、頭がすっきりする気持ちになる
 ・四碗飲むと、毛穴から悪いものが出ていくような
 ・五碗飲むと、肌がつるつるになる
 ・六碗飲むと、魂が仙人のそれに通じる
 ・七碗飲むと、もう飲めません、両脇に清風が吹いてきて、仙人が住んでいる
と言われている蓬莱山へ連れて行ってくれるような、それ位爽やか、かつさっぱりとした気持ちになる、それ位素晴らしいお茶をありがとう





 最初はお礼を述べていた手紙、しかし最後の方は農民が苦労して命をかけて作っていることを理解していますか?といった詰問になっている、蘆仝の民を思う精神性が感じられるそうで、この労りの精神が煎茶の精神につながっているとの解説でした。
画に見る煎茶として、森寛斎(1814〜1924)の鞍馬の天狗が深山で煎茶を楽しんでいる様子、富岡鉄斎(1836〜1924)の自然の中でお茶を楽しんでいる様子、三代 歌川豊国(1786〜1864)の船の上で楽しんでいる様子を示していただきました。「いずれも涼炉と煎茶特有の道具が描かれており、江戸時代から煎茶が嗜まれていたことが分かります」と可楽氏。江戸時代後期、明治時代になりますと、婦女子の教育の一環として使われてきており、野口小蘋(1847〜1917)の美人画の中にも煎茶道具がありました。水野年方(1866〜1908)の『高楼迎客煎茶之図』の中には、部屋の中でお茶会が催されている様子が描かれ、美人図で華やかで女性がたしなむものとの印象を受けます。可楽氏は「しかし、江戸時代は男性の世界のものでした」と話されました。
 蘆仝や陸羽以前の「食べるお茶」について「お茶は具材の一つであったり、スープに入れたりして摂取する仕方が始まりで、現在も各民族の特有のお茶の摂取の仕方が引き継がれており、中国の近隣諸国でも野菜の一種とも言える摂取の仕方がなされています。バター茶、ミルク茶になりますとお茶に近づいてきた感はありますが、現在のお茶とは異なります」と可楽氏。蘆仝や陸羽が飲んでいたお茶は、餅茶・団茶で乾燥しやすいように中心を紐で通し、飲む時は軽く火で炙って柔らかくして「茶研」で荒く砕き、沸いた湯の中に入れ、「茶を煎じる」ことから煎茶と呼ばれていました。
 現在の煎茶は、茶葉に湯を注いでいれる淹茶(えんちゃ)といういれ方になり、岡倉天心がお茶の文化を海外に紹介する際に「茶の本」を出版した、それについて説明していただきました。
 1.煎茶(唐代 平安時代
   The Cake-tea which was boild.
 2.抹茶(宋代 鎌倉時代
   The Powderd-tea which was shipped.
 3.淹茶(明・清代 江戸時代):急須の中に湯を注ぎ、そこからお茶を取り出す。
   The Leaf-tea which was steeped.
 歴史的に煎茶の文字が表れたのは、平安時代嵯峨天皇が近江に行き、梵釈寺に立ち寄った際、お寺の永忠(遣唐僧)が「手自煎茶奉御」、お茶で接待した時だそうです。嵯峨天皇奈良時代からの古い慣習に決別し、中国をモデルにして自分らしい都つくりをしたいと思い、遣唐僧を送りました。お茶が非常に気に入り、それまで宴ではお酒が付きものだったのに対して平安前期ではお茶でコミュニケーションをし、漢詩を詠みましたが、平安時代後期になりますと嵯峨天皇空海も死去、貴族社会にも陰りが見えてきて、宴会といえば現在のようにお酒でという風潮になり、煎茶文化も忘れ去られてきました。
 宋代の皇帝は前の皇帝が煎茶を尊んでいたことが気にいらず、煎茶にかわって抹茶を飲むようになりました。同じころ日本では、栄西明恵に友好の証としてお茶の種を送ったそうです。辛い修行をしていると眠くなりますが、そんな時お茶を飲むと頭がすっきりしますので、お茶は目覚まし草と言われていたとか。明恵はお茶の苗を京都栂尾(とがのお)に植えたところ、そのお茶が非常においしかったことから、栂尾のお茶が本茶であり、それ以外はお茶ではないと言われるくらい有名なお茶になり、民衆が栽培方法を明恵に請うたところ、「馬に乗り、そのひずめの跡に種を蒔きなさい」と教えたそうです。この栽培方法が後に宇治に伝わり、宇治の銘茶の始まりになったとのことです。
 中国、明朝の元璋皇帝は、抹茶にして納める方法は農民に苦労がかかるからと、前の皇帝とは異なるやり方に変更し抹茶を廃止し葉茶での貢茶にしました。この頃から淹茶方式に変わり、淹茶の飲み方を日本に紹介した人が万福寺に来た隠元(1592〜1673)と言われています。万福寺と言えば、普茶料理ですが、精進料理を淹茶と共に広めたそうです。隠元を庇護したのが後水尾法王で、後に修学院離宮建立を命じた人です。後水尾法王は、修学院離宮に煎茶のかまどを造らせましたが炉を切らず、抹茶の茶室は造らせていません。後々、修学院離宮明治維新の原点と言われているそうです。茶の湯は、当時、武家社会、徳川幕府側の教養であり、朝廷側は平安時代嵯峨天皇が好んでいた煎茶を尊び、煎茶は勤皇派の思想の原点になったようです。後水尾法王の息子、堯恕(ぎょうじょ)法親王(ほっしんのう)は“一生薄茶もまいらせず、煎茶のみなり”と
幕府に対する嫌味を表したとあります(「槐記」)。





 江戸時代になり、煎茶中興の祖として売茶翁が現れた様子を話していただきました。京都の観光名所でお茶の振り売りを行い、値段を決めずただ飲みでもいいような売り方をしたため、京都の風雅な人、文人から注目されるようになったそうです。売茶翁はもと僧侶だったとか、目的は当時腐敗・堕落・衰退の一途をたどっていた禅僧社会に対して警鐘を鳴らすことで、当時は茶の湯イコール禅という考え方があったため、批判は「茶禅一味」を説く茶道そのものに向けられ、その考え方に対して決別の意味がありました。蘆仝の生き方によせる強い共感がありました、と可楽氏。振り売りすることによって多くの人が集まり、その人たちに自分の考え方を説いていった、要するに煎茶を上手に使ったのです。売茶翁は当時の京都の文人からすると憧れや敬意の的であったようで、多くの人たちが肖像画を描いています。
 「夏目漱石もまた、売茶翁のファンであったことがその足跡を辿ると分かります」と可楽氏は漱石下鴨神社を訪れた際に詠んだ歌を示して説明してくださいました。
 “春寒く 社頭に鶴を 夢みけり” 売茶翁は、下鴨神社の糺(ただす)の森で一服一煎という形でお茶の振り売りをしていましたので、漱石糺の森に来ることが憧れだったそうで、夜やって来て売茶翁を偲んでこの句を詠んだとのことでした。
 その後、喫茶精神は上田秋成(1734〜1804)に受け継がれ、幕末には頼山陽などの勤皇派に好まれて行き、茶の湯対煎茶という図式ができ上ったと話されました。
 日米修好通商条約締結の裏で、ハリスと下田奉行井上清直が難しい交渉をした際に、井上はハリスをお茶席に誘い、手自ら一煎差し上げたそうです。幕府は茶の湯を嗜むことが教養でしたのに、井上は煎茶で接待したのです。高い身分の信濃守(井上)自らお茶を淹れてくれたということは、友好の証であり最上のコミュニケーションであるとハリスは感じとり、困難な交渉が前に進んだということです。「これは、煎茶による高度な非言語コミュニケーションが成立したとも言えます」と可楽氏。人がコミュニケーションをとる上では、言語によるコミュニケーションの方が重要視されると思われますが、心理統計学では非言語コミュニケーションの方が重要だという結果が出ていて、その割合が85〜95%という高い数値になっており、言葉が意味する内容は15%から僅か5%程度しか重要視されていないということになります、と可楽氏はご自身の研究テーマに繋げて話してくださいました。また、「お点前をするということはおいしいお茶を淹れてあげるということで、ハリスは自分のために信濃守がお茶を淹れてくれる動作そのものが高度なコミュニケーションであり、最上のおもてなしということを感じとったと思われます。非言語コミュニケーションは、現実には味覚ということで、お茶の味が非常に効果があったのではないかと考えています」と結ばれました。
 小川流の煎茶は「雀の涙」と評されていますが、奥の深い「甘い」お茶の味は、一度喫した人を虜にしてしまいます。


 講演終了後、スライドの「丸亀のお茶について」に質問が出ましたので、引き続き説明していただきました。
 幕末、大名が大名庭園として管理していた中津万象園 観潮楼が丸亀にありましたが、ここには煎茶用の茶室を造っていたそうです。大名が造るお茶室のほとんどは抹茶用だったこの時代にです。一般的に大名庭園は庶民に開放されていなかったにも関わらず、ここはかなり開放的だったようです。近年になってここは現存する最古の」「煎茶席」ということが学術的に分かってきたそうです。


座長:まとめとして「全てが印象的で、五感で感じるものなのだと、そのためにも我々は五感を研ぎ澄まさなければならないと思いました。握手よりも感じるものを大事にする日本人の心というものを再確認させていただきました」と結ばれました。




閉会のご挨拶 智の木協会 理事 大塩 裕陸 氏

 お茶が大好きとおっしゃる大塩理事、しかし煎茶道の中身については全く知りませんので、大変良い勉強になりましたと話されました。可楽氏の姿勢のよさ、素晴らしい立ち振る舞い、動作がやさしい、全て伝統を受け継いで発展させておられる日々の精進が身体に表れている、まさに非言語コミュニケーションそのものと感じました、と述べられ閉会のご挨拶とされました。










 閉会後は交流会が開催されました。